2011年5月11日水曜日

夜露死苦現代詩2.0 日本語ヒップホップの詩人たち

 いまいちばん意欲的な現代美術の展覧会は、東京ではなく地方の美術館で開かれている。
 いちばん新しいファッションは、田舎の不良が生み出している。
 いちばん刺激的な音楽もまた、東京ではなく地方からやってくる。
 2005年から1年間、僕は『夜露死苦現代詩』という連載をやらせてもらった。それは死刑囚の俳句から障害者のつぶやき、暴走族の特攻服に散りばめられた刺繍詩まで、およそ「現代詩」とはみなされていない、でも言葉の持つリアリティ、強度ではプロの現代詩人よりもはるかに僕らの胸を打つ、路傍の無名詩人たちの作品を拾い上げる作業だった。
 あれから6年間たって、なにが変わっただろうか。僕に見えるのは「東京の権威」が音を立てて崩れていくプロセスだ。
 ストリートで生まれ、音楽を超えて広がるひとつの文化となりつつあるヒップホップというものに興味を抱き、アルバムを買ったり深夜のクラブに通ったりするうちにわかったこと―それはいま、いちばんおもしろい音やシャープな詩を書くアーティストは、ほとんどみんな東京じゃなく、地方にいるってことだった。
 地方出身、ではなく地方に生まれ育ち、そこに住みつづけながら活動しているアーティストたち。自分がいる場所で自分の音楽をプレイし、それを聴いてくれるオーディエンス、愛してくれるファンがいれば、それでいい。東京に相手にされないのではなく、東京を相手にしないこと。東京にしか目を向けない既存のメディアには、それが見えていない。見えていないから、遅れる。遅れるから、リアリティを失う。リアリティを失ったメディアに、なにが残されているだろう。
 これから1年間にわたって、ラッパーという名前を冠した街の詩人たちを、僕は探しに行く。いま、いちばんイキがよくて、粋で、生きた言葉をつむぎ出す男の子や女の子たちを。いろんな場所に、なるべく東京から遠い場所に。


夜露死苦現代詩2.0の第1回目は、THE BLUE HERBのILL BOSTINO。いま、日本のラッパーのなかで、もっともリアルで研ぎ澄まされたリリック=詩を書くBOSSとは、どんな人間なのだろう。どんな生きざまからあんな詩が生まれるのだろう。全15ページ、これまで語られることのなかったエピソードを含む、BOSSの人生とリリックを語り尽くします。

本連載のためにつくられた特設サイトでは、文中で取り上げられた音源が視聴できます。できることなら、音を聞きながら、文章を読んでください。

特設サイト:http://www.shinchosha.co.jp/shincho/4649/

これから1年間、全力で突っ走る超真剣勝負連載、夜露死苦ご支援のほどを!