新宿駅西口から新都心の高層ビル群を越えた先。十二社(じゅうにそう)と呼ばれるエリアがある。かつて新都心は巨大な淀橋浄水場だったわけだが(ヨドバシカメラはこの地で創業)、その先の十二社あたりは長らく、戦後の雰囲気を残す庶民的な住宅街だった。真っ黒なお湯が珍しい天然温泉だった十二社温泉があったり、青梅街道を挟んだ北側などは特にごみごみした下町っぽい風情が残っていたのだが、いまは都市再整備計画の波に呑まれ、風情もなにもないビルと空き地ばかりの、寒々しさが身に沁みる一帯である。
十二社の通りと青梅街道の角で、もう35年も営業を続ける老舗スナックが<プレジデントハウス>。タクシーで前を通るたびに、「ラウンジ エンカ ナツメロ ラテン バラード」などと色取りの文字が光るネオンサインが気になっていたのだが、思いきって入店してみると、そこはタイムトンネルをくぐり抜けた先の絢爛たる昭和空間だった。ウッドパネルを張り巡らした壁、シャンデリアふうの照明、金属板を貼り込んだテーブルトップ、いまは懐かしVHD(わかります? かつてレーザーディスクと覇権を争ったシステム)がずらりと揃ったラック、そしてなによりジュークボックスを中央に据えたステージと、両側に鎮座するライブハウスのような巨大スピーカー。このサウンドシステムは、もはやスナックとかいう範疇じゃないでしょう!
西新宿というより、イギリスの田舎の老舗ホテルのロビーに迷い込んだような部屋に落ちつくと、ママさんが休みなしに「これ食べなさい、あれ食べなさい」と、家庭料理の皿を次から次へと出してくれる。
奥を覗けば、これまた懐かしき公衆電話ボックスあり、さらに「ロイヤルルーム」と名づけられた、VIPルームまで完備! これって、スナックと呼んでいいんでしょうか。
こんなすごい店を、35年も見逃してたなんて。まだまだ東京は奥深いです・・・(溜息)。
http://www.kosaidoakatsuki.jp/shuppan/yondoko/
ちなみにこのお店、さきごろ惜しまれつつ終了してしまった、玉袋筋太郎さんがスカパー!でやっていた『ナイトスナッカーズ』でも紹介されてました。(http://entame.express.jp/snack/special/index.html) こちらでそのサワリをどうぞ。