北綾瀬駅を降りて、住宅地の中にちらほら畑も混じる、見事なまでに地味な郊外風景のなかをてくてく歩いて行くと、突然現れる立派なビル。これが日本最大の無声映画コレクションを擁し、弁士も育成する特異な民間フィルム・ライブラリーであり、日本無声映画史の守護神でもあるマツダ映画社だ。
マツダ映画社は収集した作品をフィルム・レンタルしたり、ビデオ、ＤＶＤにして販売しているほか、1959（昭和34）年から『無声映画鑑賞会』というシネマクラブを立ち上げ、「無声映画を制作当時の上映形態、すなわち弁士・伴奏音楽付きで上映することで、活動写真本来の持つ楽しさ、素晴らしさを多くの人々に広める」（公式サイトより）活動を、すでに半世紀以上も続けている。映画好きの読者諸氏なら、すでにご存じだろう。
しかし無声映画鑑賞会と同じくらいの歴史を持ちながら、それほど世間には知られていない蛙の会を主宰するのは豊さんのお兄さん、松田春翠の長男である松田誠さん。「活弁や街頭紙芝居などの、伝統話芸の伝承を目指す話術研究会」である蛙の会は、毎月いちど、映画社の会議室に集まって、所蔵の紙芝居（これも映画社はかなりのコレクションを保有している）や、無声映画に合わせて、話芸の練習に励むサークルなのだ。
