2011年7月7日木曜日

東京右半分:小岩純喫茶紀行 前編

いまでこそ総武線の快速も停まらず、新小岩と市川の両隣に挟まれて、いささか影の薄い静かな街・小岩。都心方面から総武線に乗ると、隅田川を越え、荒川・中川を越え、さらに新中川を越えて辿り着く小岩の、そのすぐ先はもう千葉県。まさしくここが東京のイーストエンドである。

かつて小岩は「東の銀座」とも呼ばれた一大歓楽地であった。もともと小岩は終戦直後から闇市が駅前に広がり、それが道路整備によって、現在の中央通りを流れていたドブ川(用水路)に板を渡したバラックづくりの「ベニスマーケット」を形成。いっぽう駅から南に行った二枚橋には、進駐軍用につくられた慰安施設(RAA——日本政府による売春宿ですな)の『東京パレス』が威容を誇り、それが東京屈指の赤線地帯へと発展。そして高度経済成長期に突入すると、夜の駅前では同じ城東地区のライバル錦糸町をしのぐ数の高級クラブが酔客獲得を争い、お値段のほうも銀座と同格。「ハリウッド」チェーンを筆頭とするキャバレーもひしめき、たいへんな賑わいだったという。


そんな、在りし日の小岩の栄華を反映しているせいかどうかは定かでないが、小岩駅周辺には古き良き喫茶店のスタイルをしっかり踏襲する、昔ながらの喫茶店がいくつも生き残っている。モーニングがあって、新聞や雑誌があって、タバコも吸えて、コーヒーもあればビールも飲めて……。


隠れた「純喫茶タウン」として、喫茶店文化愛好家にはよく知られる小岩。その名店のうちから特選の数軒を、これから2週にわたってご紹介しよう。まず今週は小岩駅北口から歩いてすぐの『喫茶店 木の実』から。