2009年12月8日火曜日

東京右半分:北千住ハイファイ・クルーズ 前編


北千住駅西口を出て左側の、巨大な飲食街のただなかで、いま6軒の飲食店舗を展開する、若い兄弟がいる。兄の島川一樹さんと、弟のシマカワコウヂさん。生まれ育った長崎から中学時代に北千住に引っ越してきた。

 兄弟ふたりで最初に作った店が、1997年開店の『コズミックソウル』。名前はニューエイジふうだが、中味はショット売りのカクテルバー。ソウル・ミュージックを流しながら、ひたすら酒のうまさを追求する、渋いオトナのテイストだった。

 開店から1年半ほどで、兄の一樹さんは他店舗の経営に乗り出し、コズミックソウルは弟のコウヂさんに任されることになる。そのときコウヂさんは20歳。

 若きマスター・バーテンダーに転機が訪れたのは、2001年のこと。それまで楽器など触ったこともなかったこともなかったコウヂさんだが、いきなりギターを始めて、50日ほど練習したあと、初めて人前で歌ったら、「歌はともかく選曲がいい!」とみんなに誉められて、「でも自分では、”いい”という言葉しか頭に残らなくて、ほめられた~~~!って思っちゃって、それから勘違いして、どんどん音の世界に入っちゃったんです」。

 音に目覚めたコウヂさんのもとには、いつしかさまざまな民族楽器や演奏家が集まるようになり、おしゃれなカクテルバーは、どんどん「音神社」化していった。モンゴルのホーミーを練習するようになって、店も「倍音カフェ&バー コズミックソウル」に改名。お兄さんも呆れるペースで、エキセントリックかつ濃密な「音と酒の空間」に変身している。



コズミックソウルの、もうひとつの自慢は、渋谷区笹塚のラボから手作りの真空管アンプを世に出している、小松音響研究所(http://blog.komatsuonkyo.com/)による、特注サウンドシステムだ。サウンド・アーティストの友人に紹介されて、その暖かくリアルな音にひと目(耳)ぼれ。本来は、特注でシステムを組んでもらうお金の余裕はとうていなかったけれど、熱意で小松さんを動かし、店にちょうどいいシステムを作ってもらった。



いまではコズミックソウルから、小松音響研究所製の真空管アンプは、兄弟が手がける他の店舗にも広がっている。立ち飲み屋『南蛮渡来』でレゲエを聴きながら、まず一杯。『わかば堂』でジャズとピッツァとワイン。『あさり食堂』で釜焚きのご飯や『でんでら亭』でお総菜をつまみながら、スタンダードに酔う。こんな「真空管アンプ・ツアー」が北千住の、それも歩いて2、3分圏内で、できてしまうのだ。表参道でもなく、代官山でも中目黒でも下北沢でも吉祥寺でもなく、「オヤジの町でしょ」と言われつづけてきた北千住で。

 今週はそのベースキャンプであるコズミックソウルを、来週はほかの「真空管アンプの店」を訪れてみる。


http://www.chikumashobo.co.jp/blog/new_chikuma_tuzuki/