浅草雷門から浅草寺を抜けて、言問通りを渡ってみると、あたりの空気が一変するのに気がつくだろうか。「観音裏」と呼びならわされるこの一角、正確に言えば南北を言問通りと浅草警察署前の通り、東西を馬道通りと千束通りに挟まれた、一辺500メートルかそこらのブロックである。
南に浅草寺を中心とした浅草の歓楽街、北に吉原遊郭という絶好(?)のロケーションに位置する観音裏、現在の住所で言えば浅草3丁目あたりは、江戸の昔からずっと、東京屈指の花街として栄えてきた。いまは春の植木市ぐらいしか観光客で賑わうことがない静かな住宅街だが、歩き回ってみれば粋な風情の飲食店やしもた屋がずいぶん残っていて、散歩しているだけでも楽しい。東京都と京都、両方に住んでみた経験から言うと、いまのようにぐちゃぐちゃになる前の京都の粋街に、いちばん近い風情がただよっているのが、東京だとこのあたりなのかもしれない。
いまから3年ほど前、踊りのお師匠さんが住んでいたという家を改造してバーにしたのが、<Bar FOS>。これこそ東京じゃなくて、京都先斗町の路地裏あたりにありそうな、いかにも渋い和風のたたずまいだ。