2011年9月15日木曜日

本郷館の最後

ツイッターでも少しだけ書きましたが、『TOKYO STYLE』でも取材した文京区本郷の木造3階建てアパート「本郷館」が、ついに壊されてしまいました。1905(明治38)年に建造された「高等下宿」。今年で築106年! 林芙美子から一説によれば蒋介石まで、数々の著名人が暮らしたことでも知られる、貴重な文化遺産ですが、熱心な保存運動にもかかわらず、この8月になって突然の解体工事開始。新聞などの報道を読まれた方もいらっしゃるでしょうが、すでに建物は跡形もありません。

関東大震災を生き延び、太平洋戦争の空襲を生き延び、3月11日の地震にもびくともしなかった本郷館ですが、重機にかかってはひとたまりもなく、あっというまに解体完了です。このあとは、いったいなにが建つんでしょう・・。


先週、現地を訪れてみたら、朝から工事現場を見守っているひとが何人もいました。そのひとりに話を聞いてみたら、「30年間も住んでいたので、居ても立ってもいられず、毎日見に来てるんです!」とのこと。その気持ち、わかりますねえ。

いっぽう、いくらなんでも百年を越す建築なので、「次の大地震が起こったら・・」と心配する近隣住民がいることも確か。近くの喫茶店で会った老婦人も、「あれは周囲のお宅は怖いですよ、残念だけど、解体されてよかった」と言ってました。ただ壊してしまうのではなくて、明治村でもどこでもいいから、移築できたらいちばんよかったのでしょうが。そういえば、同じく大好きなひとが多かった広尾の羽澤ガーデンも、間もなく解体予定。どう知性や洗練を装っても、こころは貧しい金持ちばっかりですね、ほんとに(『羽澤ガーデンを守る会』参照 http://sky.ap.teacup.com/hanezawa/)。

在りし日の本郷館、1991〜2年当時

いまから現地に足を運んでも、もはや工事現場しか見ることはできませんが、本郷館の保存に関してはふたつの充実したウェブサイトがあります。

本郷館を考える会 オフィシャルサイト http://hongoukan.blogspot.com/
本郷館プロジェクト http://www.hongo-kan.com/
(こちらのサイトの「資料・販売」ページにある『本郷館調査報告書 別刷図版』には、図面や室内写真がたくさん載っています。PDFをダウンロードできるので、興味ある方は要チェック)

また、高橋幹夫さんという研究者が『本郷館の半世紀』、『本郷、下宿屋ものがたり』『下宿屋本郷館の生活実態』という3冊の手作り本を出されていて、こちらはAMAZONから購入可能です。いずれも700円とお買い得!



いまから20年ほども前、何人かの住人と知りあって撮影に通った本郷館は、東大生からおばあさんまで多種多様な人たちが暮らす、すばらしくぼろっちくて、すばらしく元気な生活共同体でした。文庫版になった『TOKYO STYLE』でも、その様子はご覧いただけますが、なにせ判型が小さいので、少しだけここに写真を載せておきますね(倒産した京都書院から出た大判の写真集だと、じっくり鑑賞可能。古書店で安く買えます・・涙)。しかし本郷館だけの写真集、作りたいなあ・・。