今年デビュー25周年を迎えた伍代夏子の、最大のヒットは50万枚を超えた1991(平成3)年の『忍ぶ雨』だろうが、僕が最初に引っかかったのはその少しあとの『恋ざんげ』だった。あの「シュルル、シュルル、シュルル・・」というリフレインが印象的なヒット曲である。
あれは七月 蝉しぐれ
瀬音したたる いで湯宿
ふたり渡った あの橋は
女と男の 紅い橋
冒頭の4行までは普通の演歌の歌詞なのだが、そのあと唐突に
ああシュルル シュルル シュルル
明かりをつけても 暗すぎる
ああシュルル シュルル シュルル
淋しさばかりが 群がって
夜更けのテレビは 蝉しぐれ
そうか、シュルルってのはテレビの放送が終了したあとのサンドストームのことなのかと思ったりするのだが、3番の最後になって
ああシュルル シュルル シュルル
帯とく音さえ せつなくて
夜更けに泣いてる 恋ざんげ
と明かされる。そうか、シュルルとは、帯をとく音だったんだ! ひとり、寝る前に着物を脱ぐときの音で、別れた男を思い出す。そんな深い歌詞を書いたのは、石川さゆりの『天城越え』や大川栄作の『さざんかの宿』でも知られる文芸演歌の巨匠・吉岡治。いま、とにかくわかりやすくて、歌いやすい曲ばかりがヒットチャートを賑わすなかで、こういうディープな歌を聴くと、ほっとする。「カラオケでうたえる歌」じゃなくて、「じっくり聴きたい歌」。伍代夏子は、そういう古風な演歌を愛し、歌いつづける歌手である。