もともと観音裏は「浅草花街」と呼ばれる、浅草芸者のホームグラウンドだった。いまでも残る見番を中心に、最盛期の大正末期には料理店49軒、待合茶屋250軒、芸妓1060名がひしめく、東京でも新橋や人形町と肩を並べる一大花街だったという。
そんな観音裏で飲んだくれ、もう一軒とフラフラ歩くたびに気になっていたのがこのお店、『梵字バー』だ。見かけは単なる、2階建ての木造家屋。しかし、なんて書いてあるかまるでわからない、梵字の看板。中がどうなってるかもまるでわからない、分厚いドアにはタトゥー屋のポスター……怪しすぎる。そして勇気をふるって入店してみれば、そこは向かって右側に居酒屋ふうのカウンター、左側の座敷エリアには大小さまざまの水タバコのパイプが林立する、「珍酒と水タバコと梵字と音楽の迷宮」だった。