2011年4月7日木曜日

東京右半分:風俗資料館・前編

大英博物館やメトロポリタン博物館など、世界の名だたるミュージアムには、ポルノグラフィに分類される,一般に公開しにくい文献資料を集めたシークレット・ルームがあると言われている(その最大のものはバチカンであるとも)。しかしながら東京の国会図書館には、そのような秘密室は残念ながら存在しない。そのかわりになるのが、日本最大級のセクシュアルな文献資料コレクションを、飯田橋の雑居ビルの一室に集めたプライベート・ライブラリーであるといったら、驚かれるだろうか。



『風俗資料館』とシンプルな名前がつけられたそれは、1984年にスタートした会員制図書館だ。入会金1万円と月会費3500円を支払えば(なおかつ未成年でなければ)、だれでも会員となって、コレクションのすべてを閲覧できる(一日だけのビジター制度や女性限定、研究者用などのコースも設けられている)。世にある私設図書館や資料館のほとんどはボランティア活動であったり、企業、団体のバックアップがあって成り立っているなかで、風俗資料館は会員からの会費収入だけで、もう27年間も運営されてきた希有な施設なのだ。



2万冊あまりにおよび、いまだ増えつづける蔵書は、風俗と言っても一般的なポルノグラフィではなく、SM、フェティシズムに特化したコレクションである。壁全面を覆う書棚に整然と並ぶ、国会図書館すら集めようとしなかった”悪書"の数々。物音ひとつしない室内で会員たちが読書に耽る姿を眺めているうちに、こここそが「存在するはずのない国会図書館の秘密室」ではないかと錯覚したくなってくる。