西永氏は走査電子顕微鏡を使用して、さまざまな試料を拡大撮影してきた。こういう技術系の世界はとかく「何十万倍まで拡大できるか」みたいな競争に向かいがちだが、彼の作品のユニークなポイントは20倍から百数十倍までの、普通の顕微鏡どころかルーペでも見えそうな低倍率にこだわっているところにある。わざわざ電子顕微鏡という高性能なマシンで、こんな低倍率の画像を得ようとする行為自体が、技術系の人間には理解できないかもしれない。
しかしここに収録した、たとえばアリの頭とかハエの吻とかのごく日常的な物体は、ルーペや光学望遠鏡で覗く拡大画像とはまったく別次元の、素晴らしくクリアーな解像度をもって我々の前に立ち現れる。通常の拡大画像とはちがって、スキャナーのように凹凸にすべてピントが合い、しかもモニターに映し出されるために単色となるイメージは、単なる物体の拡大像にはおさまらない、一種独特にシュールな神秘感覚を放つ。
一見アートとは無縁のようでありながら、そのイメージは凡庸なアーティストの想像力をはるかに凌駕する、きわめて芸術的な画像へと結実しているのである。
(『デザイン豚・本文より』)