2010年11月10日水曜日

東京右半分:競艇場でアートに溺れた日

平日の朝10時過ぎ、都営新宿線船堀駅前には、すでに長蛇の列ができている。江戸川競艇場への無料シャトルバスを待つ人々だ。

競馬、競輪、オートレース、競艇と4種類ある公営競技のうちでも、競艇には独特な雰囲気が漂っている。出走者数を比較しても中央競馬が十数頭、競輪が9車、オートレースが8車であるのに較べて、競艇は6艇。それだけ投票券の順列組み合わせが少なくなり、したがって競馬のように極端な高額配当が出ないかわり、初心者にとっては予想を楽しみやすい。バスに並ぶ寡黙なファンを見ていても、”酸いも甘いも噛み分けてきました”オーラが顔からも身体からも、着衣からも漂う年配男性がほとんどだ。




1955年オープン、すでに半世紀を超える歴史を誇る江戸川競艇。全国に24ヶ所ある競艇場のうちで唯一、河川をそのまま利用しているユニークなボートレース場だ。しかし全国的な公営ギャンブル離れの荒波を受け、江戸川競艇も経営環境はけっして明るくない。いま競艇場に通ってくれるファンだけでなく、新たな客層の掘り起こしが急務であるーーというわけで、江戸川競艇は3年ほど前から、意表を突いたプロジェクトを立ち上げている。『ボートレース江戸川アートミュージアム』(略称EKAM)と題されたそのプロジェクトは、競艇場のさまざまなエリアにアート作品を配置し、レース開催日に「EKAMアートツアー」も開催。それまで競艇には興味のなかった、まったくちがうジャンルのお客さんを呼び込もうという、ギャンブルファンもアートファンもびっくりの斬新企画だ。





アートツアーは午前11時に、ふだんは入場料4000円を払わないと入れない特別観覧フロア『プレミアムラウンジ・遊』からスタート。ツアーと言っても参加人数は最大10名までの少人数。しかも専属のツアーコンダクターがつきっきりで、2時間近くにわたって作品をひとつひとつ丁寧に説明してくれ、しかも豪華ランチまでついているという、ふつうのミュージアムでは望むべくもない濃厚サービスである。

http://www.chikumashobo.co.jp/blog/new_chikuma_tuzuki/