ちょっとした用で寄った日本橋蛎殻町(水天宮そば)のロイヤルパークホテル。ロビーをうろうろしていたら、目に鮮やかな原色の絵画がずらっと並び、初老のアフリカ人が小さな机にかがみ込んで絵の具を混ぜてました。ペンキっぽい匂いに引き寄せられて近づいてみると、それは『ティンガティンガ』と呼ばれるアフリカ・タンザニアで1960年代後半に生まれたフォーク・アートでした。
「ティンガティンガ」は、1960年代初めにダルエスサラーム(タンザニアの商都)で誕生した独特の絵画スタイルで、創始者であるエドワルド・ティンガティンガの名前に由来します。
もともとは建築資材である正方形の合板に、塗装用のエナメル・ペンキを用い、動物や精霊を大胆にデフォルメした構図と、鮮やかな色彩感覚で描いたのが始まりです。
ティンガティンガ氏の死後、弟子達が彼の精神世界を継承し、野生動物にとどまらず、タンザニアの自然、人々の日々の暮らしや伝統的信仰、歴史上の出来事などもモチーフにした独特の「ティンガティンガ・スタイル」を確立しました。
1970年代以降、欧州で注目を集めるようになったこれらの絵画は、現在ではタンザニア固有の芸術、アフリカ大陸を代表するモダン・アートとして広く世界に知られています。ティンガティンガ・アートは、見るものを想像の別世界へと引き込み、心を温かく満たしてくれます。
ダルエスサラーム郊外にあるティンガティンガ共同工房では、才能に溢れ熟練した技術を持つ画家たちが今もなお活動を続けています。しかし彼らの作品への対価は、彼らが現地で築き上げたものほどにはなっていません。駐日タンザニア大使館はティンガティンガ絵画を広め、才能に恵まれた画家たちを支援するネットワーク作りに励んでいます。
(タンザニア大使館のウェブサイトより)
創始者であるエドワルドは40歳という若さで、警官に誤射され命を落としたようですが、その手法を継いだ弟子のひとりがただいま来日中。チェックイン、チェックアウトや商談で騒々しいロビーの片隅で、ひとり静かに公開制作をしているわけです。こういう出会いがあるから、街歩きってやめられないというか。雑誌の展覧会ガイドがいかにアテにならないかってことですねえ。
「23日までは毎日、ここで描いてるよ」と、きちんとスーツを着て制作中のオジサンは言っていたので、近くに用のある方はぜひ立ち寄ってみてください。ホテルからちょっと歩けば、人形町の商店街でおいしいご飯も食べられるし。
タンザニアのポップアート「ティンガティンガ絵画展2010」
開催: 2010年11月13日(土)〜23日(火・祝)
時間: 月〜金 10:00〜18:00
土日祝 10:00〜19:00
会場: ロイヤルパークホテル 1Fロビー
(東京メトロ半蔵門線「水天宮前駅」に直結)