2010年9月22日水曜日

紀伊國屋書店SCRIPTA 書評連載:2冊のトラック野郎本


昭和50(1975)年の夏、東映の首脳陣は焦っていた。9月に上映する予定の作品が、都合で流れてしまい、急遽新しい映画を作らねばならなくなったのだ。そこで脚本執筆期間2週間、撮影日数20日という、あまりに慌ただしいスケジュールで撮られたのが『トラック野郎 御意見無用』だった。

穴埋め企画として公開された『御意見無用』は予想外の大ヒットとなって、以来5年間にわたって計10本の『トラック野郎』シリーズが生まれることになる。年に2本ずつ、お盆と正月の時期に公開された『トラック野郎』は、松竹の『男はつらいよ』に対抗する、東映のドル箱シリーズとして、日本全国の映画館を満員の観客で賑わせたのだった。

1980年に最終作の『故郷特急便』が上映されてから、今年で30年。これまで『男はつらいよ』のほうは、いまだにテレビでも放映されるし、飛行機の機内でも観られたり、資料も豊富に揃っているが、『トラック野郎』はといえば、いままでかろうじてビデオやDVDがリリースされた程度。いくら本数がちがい、知名度がちがい、そして万人向けとオトナ向けというちがいがあるとはいえ(『トラック野郎』にはトルコ風呂でのハダカ宴会シーンやウンコネタなど、下ネタが随所に散りばめられていた)、あまりに無視されすぎでは・・・と憤っていた筋金入りのファンも多いはず。僕も含めて、そんな日陰モノ扱いを堪え忍んできた『トラック野郎』ファンにとって、最近立て続けに2冊の書籍が発売されたのは、うれしい驚きだった。

5月に刊行された『トラック野郎風雲録』(国書刊行会)、7月に出たばかりの『別冊映画秘宝 映画『トラック野郎』大全集』(洋泉社)。どちらも『トラック野郎』に寄せる愛情がぎっしり詰まった、ファンにとってはもちろん、昭和末期の大衆文化を見直す上でも欠かせない2冊である。