西調布の小さな駅を南口に降りると、ほとんど目の前にあるのが、昭和の香りを色濃く残す南口商店街。裏手には10数軒のスナックが並ぶ飲み屋街。いま大人気の演劇集団・鉄割アルバトロスケットの主宰者にして、このほど自伝的小説『まずいスープ』で第141回芥川賞にもノミネートされた戌井昭人さんが、「オレのオヤジが通ってる店なんですよー」と推薦してくれたのが、<スナック美ゆき(みゆき)>です。『まずいスープ』は戌井さんのお父さんが主人公のようなものなので、作品を読んでから飲みに行くと、気分が盛り上がるかも(『新潮』2009年3月号掲載)。
年季の入った木のドアをおそるおそる開ければ、そこはカウンターとソファ席がいくつかの、それほど大きくない典型的なスナック空間。しかし平日の夜、それも早い時間だというのにお客さんは満員! しかもママに加えて女の子がふたりも3人も、カウンターのお客さんの背中を押しながら動き回ったり、ソファのスツールの脇で床にしゃがんだりしながらドリンクを作ったり、大賑わいだ。こういうと失礼だけど、こんな小さな駅前の、こんな小さな店が、こんなに盛り上がってるとは夢にも思いませんでした。