風俗と居酒屋とスナックが渾然一体となった、湯島のドンキホーテ裏の一角。<プチシャンソンパブ・セラヴィ>というその店は、名前のとおりシャンソニエ、つまり生でシャンソンを聴きながら、お酒を飲める空間です。
もともと銀座でナンバー・ワンを張っていたという、シャンソン歌手のマダム順子が、この店のオーナー。25年前に開店した当初はシャンソンを聴かせていたのが、いつのころからか、湯島にほど近い上野・東京芸大の音校生たちが働くようになって、様相一変。
ピアノ、バイオリン、声楽・・・日本最高の音楽大学で学ぶ彼らは、いずれもプロを目指す”本気のアーティスト”たち。10人近いラインナップが、ふたりか3人ずつ日替わりで入っていて、夜7時半から11時半という短い営業時間に、3回もショータイムを設定しています。
時間が来ると、「それでは、これからショータイムを始めさせていただきます」という上品な挨拶とともに、ピアノに座った女の子が「それではまず、ショパンの『雨だれ』から」とか、それまでカウンターでグラスを洗っていた男の子が、目の前に立って「オンブラマイフを歌わせていただきます」とか言って、いきなりリサイタル開始。こちらはそれを、ふかふかのソファに沈み込んで、ウイスキーの水割りをすすったり、チーズの皮を剥いたりしながら、堪能する。なんだか遠い昔の、大作曲家のパトロンだった貴族のサロンに迷い込んだみたいで、すごく豊かな気持ちになる。
ふだんなら逢うどころか、すれちがうチャンスすらない、良家の子女ぞろいの演奏家の卵たちと、額がくっつきそうな距離で杯を交わしながら、とびきりの室内楽に酔ってみたり、お色気映像付きのカラオケでキャーキャー言い合ってみたり。いままでいろんな店に行ってきたけれど、こういう場所は、まずないです。ほんとは、教えたくないんですけどねえ・・。
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